愛犬との暮らしの中で、最近関係性が変わってきたと感じることはありませんか。例えば、犬が急に怒るようになったのですが、どうしたらよいですかといったご相談は非常に多く寄せられます。もしかしたら、それは犬との関係性を見直すサインかもしれません。愛犬との間に適切な犬の上下関係をわからせることは、問題行動を防ぎ、より良い信頼関係を築く上でとても重要です。しかし、そもそも犬の上下関係を見極めるにはどうすれば良いのか、具体的な犬の上下関係の見分け方がわからず悩んでいる飼い主さんも少なくないでしょう。この記事では、犬との正しい関係性の築き方から、具体的な接し方のコツまで、あなたの疑問を解消していきます。
- 犬との上下関係に関する現代の正しい考え方
- 愛犬の行動から気持ちを読み解く具体的なサイン
- 問題行動の背景にある原因と関係性の見直し方
- 罰ではなく信頼を育むためのポジティブなしつけ術
そもそも犬に上下関係をわからせる必要はあるか?
- 犬の上下関係を見極めるにはどうするか
- 行動でわかる犬の上下関係の見分け方
- 犬が急に怒るようになったのは上下関係が原因か
- 昔ながらの主従関係という考え方の是非
- 上下関係の誤解が招くさまざまな問題行動
犬の上下関係を見極めるにはどうするか
愛犬との間に適切な関係を築く第一歩は、まず現状を正確に把握することです。つまり、愛犬があなたのことをリーダーとして認識しているか、それとも同等、あるいは下に見ているかを見極める必要があります。
なぜなら、現状を理解しないまま、間違った方法で上下関係を教え込もうとすると、かえって関係を悪化させてしまう危険性があるからです。例えば、すでに飼い主をリーダーだと認めている犬に対して、過度に厳しい態度を取れば、犬は混乱し、あなたに対して恐怖や不信感を抱くようになります。逆に、犬が自分を優位だと思っているのに、そのサインに気づかず甘やかし続けると、問題行動はエスカレートしていくでしょう。
このように、愛犬の行動や態度を日頃から注意深く観察し、その行動の裏にある心理を正しく読み取ることが、全てのスタートラインとなります。次の項目で、具体的な見分け方について詳しく見ていきましょう。
行動でわかる犬の上下関係の見分け方

犬は言葉を話せませんが、その行動の端々に飼い主をどう思っているかが表れます。ここでは、飼い主をリーダーとして見ている場合と、そうでない可能性のある行動の具体例を比較してみましょう。
もちろん、これらの行動が一つ見られたからといって、直ちに上下関係が決まるわけではありません。しかし、複数の項目に当てはまる場合は、関係性を見直す一つの指標になるでしょう。
犬の行動サイン比較表
サインの種類 | 飼い主をリーダーと見ている行動 | 関係性の見直しが必要な可能性のある行動 |
---|---|---|
指示への反応 | 名前を呼ぶとすぐに来て、指示に素直に従う | 指示を無視したり、嫌がったりすることが多い |
コミュニケーション | 飼い主の目を見て、表情をうかがう | 飼い主の体に前足をかけたり、乗りかかったりする |
要求の仕方 | おもちゃを持ってくるなど、穏やかに誘う | しつこく吠えたり、噛んだりして要求する(要求吠え) |
パーソナルスペース | 飼い主の許可なくソファやベッドに上がらない | 飼い主が座る場所を横取りしたり、どかそうと唸ったりする |
散歩の様子 | 飼い主の横を歩き、ペースを合わせようとする | リードをぐいぐい引っ張り、自分の行きたい方へ進む |
食事のとき | 「マテ」や「ヨシ」の指示に従い、落ち着いて待てる | 食事の準備中に興奮して吠えたり、催促したりする |
特に、唸る、歯をむき出す、飼い主の物を守ろうとするといった行動は、犬が優位性を示そうとしている強いサインである可能性があるため、注意深く観察する必要があります。
犬が急に怒るようになったのは上下関係が原因か
結論から言うと、犬が急に怒りっぽくなった原因が、必ずしも上下関係の問題だけとは限りません。むしろ、他の要因が隠れている可能性も十分に考える必要があります。
その理由は、犬の攻撃性には様々な背景があるからです。例えば、体のどこかに痛みや不調を抱えている場合、触られることを嫌がって怒ることがあります。また、過去のトラウマや恐怖心、あるいは環境の変化によるストレスが原因で、防衛的に攻撃的になるケースも少なくありません。
「最近、急に怒るようになった」という場合は、まず病気やケガの可能性を疑い、動物病院で獣医師に相談することが最優先です。
まずは健康状態のチェックを!
行動の変化が急激な場合、それは体調不良のサインかもしれません。しつけや関係性の問題だと決めつける前に、必ずかかりつけの獣医師に相談し、健康診断を受けることを強く推奨します。
その上で、健康に問題がないと診断された場合に、初めて関係性の問題、つまり上下関係の逆転などを考慮に入れるべきです。飼い主への唸りや威嚇が、特定のリソース(食事、おもちゃ、場所など)を守るためや、特定の指示を拒否するために見られるのであれば、関係性の見直しが必要なサインと言えるでしょう。
昔ながらの主従関係という考え方の是非

かつて、犬のしつけにおいては「主従関係」を徹底することが常識とされていました。これは、飼い主が群れのリーダー(アルファ)として力で犬を支配し、服従させるという考え方です。
しかし、現在の動物行動学では、この考え方は必ずしも適切ではないとされています。言ってしまえば、この理論の元になったのは、血縁関係のないオオカミを集めた特殊な環境下での観察であり、その後の研究で野生のオオカミの群れは「親と子」のような家族的な関係で成り立っていることがわかってきました。
このため、力で押さえつけるような古い主従関係のしつけは、犬に不必要な恐怖やストレスを与え、信頼関係を損なう原因になると考えられています。結果として、飼い主の前では従うように見えても、見えない場所で問題行動を起こしたり、恐怖心から予測不能な攻撃行動に出たりする危険性も指摘されています。
目指すのは「リーダー」であって「ボス」ではない
現代のしつけで目指すべきは、力で支配する「ボス」ではなく、愛犬を導き、守り、頼られる「信頼できるリーダー」です。犬が安心してついていきたいと思えるような、尊敬される存在になることが理想とされています。
したがって、これからの犬との関係づくりにおいては、古い主従関係の概念に固執するのではなく、相互の信頼と尊敬に基づいたパートナーシップを築くことが何よりも重要です。
上下関係の誤解が招くさまざまな問題行動
犬との上下関係を正しく築けない、あるいは誤解したまま放置してしまうと、さまざまな問題行動につながる可能性があります。犬が「自分がこの家のリーダーだ」と勘違いしてしまうと、飼い主を自分の思い通りにコントロールしようとし始めるからです。
具体的には、以下のような問題行動が挙げられます。
- 唸り・噛みつき:自分の気に入らないことをされると、唸ったり噛んだりして抵抗する。
- 要求吠え:ご飯が欲しい、遊びたいといった要求を、吠え続けることで通そうとする。
- 破壊行動:飼い主の気を引くためや、ストレスから家具などを破壊する。
- マーキング:家のあちこちに排泄をして、自分の縄張りを主張する。
- 分離不安:リーダーである自分を置いて飼い主が外出することに強い不安を感じ、吠え続けたり物を壊したりする。
このように、多くの問題行動の根底には、犬が感じる「自分がこの場を管理しなくてはならない」というプレッシャーや不安が存在します。犬にリーダーの役割を押し付けてしまうことは、実は犬にとっても大きなストレスなのです。正しい上下関係を教えることは、犬を不要な責任感から解放し、安心して暮らせるようにするためにも不可欠と言えるでしょう。
正しく犬へ上下関係をわからせるための具体的な方法
- 一貫性のある態度で接することが基本
- 褒めるしつけで信頼関係を築く方法
- 要求吠えには冷静かつ毅然と対応する
- 散歩では飼い主がリーダーシップを
- 食事や遊びの主導権は飼い主が持つ
一貫性のある態度で接することが基本

犬に正しい関係性を教える上で、最も重要で、かつ全ての基本となるのが「一貫性のある態度」です。犬は非常に賢い動物ですが、ルールが頻繁に変わると混乱してしまいます。
なぜなら、犬は何が良いことで、何が悪いことなのかを、飼い主の反応から学習するからです。例えば、昨日ダメだと言われたソファに今日は乗っても怒られなかったり、ある家族は許すのに別の家族は叱ったりすると、犬は何を基準に判断すれば良いのかわからなくなります。このような状況は、犬にストレスを与えるだけでなく、飼い主のリーダーシップを曖昧にする大きな原因となります。
一貫性を保つためのルール
- 家族全員でルールを統一する:「ソファに乗ってはいけない」「人の食べ物は与えない」など、基本的なルールを家族会議で決め、全員が同じ対応を徹底します。
- 気分で対応を変えない:飼い主の気分や都合で、良い・悪いの基準を変えないことが大切です。疲れているからといって、普段は禁止している要求を許してはいけません。
- コマンド(指示語)を統一する:「おすわり」と「スワレ」など、同じ指示に対して違う言葉を使わないようにします。
このように、ブレない軸を持って接することで、犬はルールを明確に理解し、あなたを「頼れるリーダー」として認識するようになります。地道なことですが、これが信頼関係の礎を築くのです。
褒めるしつけで信頼関係を築く方法
犬との信頼関係を築きながら正しい関係性を教えるためには、罰を与えるのではなく、良い行動を褒めて伸ばす「ポジティブトレーニング」が非常に有効です。
これは、犬が望ましい行動(例:静かに待つ、指示に従う)をした瞬間に、すかさず褒めることで、「この行動をすると良いことがある」と学習させる方法です。褒められるという嬉しい経験を通じて、犬は自発的に望ましい行動を選択するようになります。この方法は、犬の自信を育み、何よりも飼い主さんとのコミュニケーションを楽しく、ポジティブなものに変えてくれます。
褒め方のバリエーション
- ご褒美(おやつ):犬が特に喜ぶ特別なおやつを、トレーニングの時だけ使うと効果的です。
- 褒め言葉:「イイコ!」「上手!」など、高いトーンで、心から褒めていることが伝わるように声をかけます。
- スキンシップ:優しく撫でたり、胸のあたりを軽く叩いてあげたりするなど、愛犬が喜ぶ方法で触れ合います。
大切なのは、タイミングです。良い行動をしたら「間髪入れずに」褒めることで、犬は何を褒められたのかを正確に理解できます。叱ってばかりのしつけは、犬を萎縮させ、信頼を失うだけです。ぜひ、愛犬の良いところをたくさん見つけて、褒めてあげてください。
要求吠えには冷静かつ毅然と対応する
「ワンワン!(ごはんちょうだい!)」「クーン(遊んで!)」といった要求吠えは、多くの飼い主さんが悩む問題行動の一つです。ここで最もやってはいけないのは、その要求に応えてしまうことです。
一度でも「吠えたら要求が通った」という経験をさせてしまうと、犬は「吠えることは自分の願いを叶える魔法の杖だ」と学習してしまいます。そうなると、要求はどんどんエスカレートし、吠え癖が定着してしまうのです。
では、どうすれば良いのでしょうか。答えは「徹底的に無視する」ことです。具体的には、以下のような対応を取ります。
- 目を合わせない:犬の方を見ず、視線を外します。
- 声をかけない:「うるさい」「ダメ」など、どんな言葉も犬にとっては反応(ご褒美)になり得ます。完全に無言を貫きます。
- 触らない:体に触れたり、押しやったりするのも反応です。
- その場を立ち去る:可能であれば、別の部屋へ移動し、犬が静かになるまで戻らないのが最も効果的です。
そして、犬が吠えるのを諦めて静かになった瞬間に、すかさず褒めてあげます。これを繰り返すことで、犬は「吠えても無駄だ。静かにしていれば注目してもらえる」と学習していきます。根気のいる対応ですが、ここで毅然とした態度を貫けるかどうかが、リーダーシップを示す上で非常に重要になります。
散歩では飼い主がリーダーシップを

毎日の散歩は、犬にとって最高の楽しみであると同時に、飼い主がリーダーシップを発揮する絶好の機会です。散歩の主導権を犬に握られてしまうと、関係性が曖昧になる原因となります。
犬がリードをぐいぐいと引っ張り、飼い主がそれに引きずられている状態は、犬から見れば「自分がリーダーとして先導している」と認識している可能性があります。これでは、外の世界の様々な刺激に対して犬が自己判断で対処しようとするため、他の犬に吠えかかったり、拾い食いをしたりといった危険な行動にも繋がりかねません。
理想的な散歩は、「リーダーウォーク」と呼ばれる、犬が飼い主の横に寄り添って歩くスタイルです。
リーダーウォークのポイント
- 出発は落ち着いてから:散歩に行く前に犬が興奮している場合は、落ち着くまで待ちます。玄関のドアを開けるのも飼い主が先です。
- 飼い主の横を歩かせる:犬が飼い主の肩より前に出ないように意識します。常に半歩後ろを歩かせるイメージです。
- 引っ張ったら立ち止まる:犬がリードを引っ張ったら、すぐにその場で立ち止まります。犬がこちらを振り返り、リードが緩んだら再び歩き始めます。
- 方向転換も飼い主主導:道の曲がり角やUターンも、飼い主の意思で決めます。犬の行きたい放題にさせません。
これを徹底することで、犬は「散歩のルートやペースを決めるのはリーダー(飼い主)だ」と理解し、飼い主に注意を向けながら歩くようになります。安全で楽しい散歩のためにも、ぜひ意識してみてください。
食事や遊びの主導権は飼い主が持つ
食事や遊びは、犬にとって非常に価値の高いものです。これらの「リソース(資源)」を誰が管理しているかということは、犬が群れの順位を判断する上でとても重要な要素になります。
したがって、食事や遊びの開始と終了のタイミングは、常に飼い主が決定するというルールを徹底することが大切です。これにより、犬は「大切なものは全てリーダーである飼い主が管理している」と自然に理解し、飼い主への依存度と信頼感を高めます。
食事の主導権
食事の前に必ず「オスワリ」や「マテ」をさせ、飼い主の「ヨシ」という許可が出てから食べ始めるように習慣づけます。フードボウルを置いた瞬間に飛びつくようなことがないように、落ち着いて待つことを教えましょう。これにより、食事への執着をコントロールし、衝動的な行動を抑制する訓練にもなります。
遊びの主導権
遊びは犬からの要求で始めるのではなく、飼い主から誘って始めるのが理想です。また、最も重要なのは「遊びの終わりを飼い主が決める」ことです。犬が飽きてやめてしまう前に、飼い主が「おしまい」と宣言しておもちゃを片付けます。これにより、犬は「楽しい時間もリーダーが管理している」と学び、飼い主への集中力が高まります。
「おすそ分け」も注意が必要です。人間の食事中に欲しがっても、絶対にあげてはいけません。食事の主導権が曖昧になるだけでなく、犬の健康を害する原因にもなります。ルールを徹底して、頼れるリーダーを目指しましょう。
焦らずに犬へ上下関係をわからせる総括
この記事では、犬との上下関係について、現代的な考え方から具体的な接し方までを解説してきました。最後に、大切なポイントをリスト形式で振り返ってみましょう。
- 犬との関係は力で支配する主従関係ではない
- 目指すべきは恐怖で支配するボスではなく信頼されるリーダー
- まずは愛犬の行動を観察し現状の関係性を把握する
- 飼い主を上に見ているかどうかの行動サインを見極める
- 犬が急に怒る場合はまず病気やケガを疑い動物病院へ
- 現代のしつけではポジティブトレーニングが主流
- 良い行動をしたら間髪入れずに褒めて伸ばす
- しつけのルールは家族全員で必ず統一する
- 飼い主の気分や都合でルールを変えない一貫性が重要
- 要求吠えには徹底した無視で対応する
- 静かになった瞬間に褒めることで正しい行動を教える
- 散歩は飼い主が主導権を握るリーダーウォークを意識する
- 食事の前には必ずマテをさせて許可を出してから与える
- 遊びの開始と終了は飼い主が決定する
- 関係性の構築には時間がかかるため焦らず取り組む